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神経内科通信

2011年02月号 「高血圧と塩分」

  日本高血圧学会の発表によりますと、平成21年における日本の高血圧人口は約4000万人に及ぶそうです。ご存知のように、高血圧はそれ自体血管に悪影響を与えるわけですが、長期的には動脈硬化を加速させて脳卒中や心筋こうそく、じん臓疾患の引き金になります。血圧の管理は大切です。
 
  さて、高血圧の原因ですが、いくつかの特殊な高血圧を除けば、複数の要因が重なって起こることがわかってきています。その代表的なものを挙げますと、遺伝や環境、食生活や体内ホルモンのバランス、血液の流れの状態などです。高血圧の権威である福岡大学名誉教授の荒川先生は、これらの要因の中でもっとも重要なのは(つまり万人に共通している高血圧の最大要因は)塩分であると断言されています。すなわち、高血圧治療の大原則は塩分制限ということなのですね。ある講演会で、荒川先生は非常に興味深い話をなさいました。信じられないことですが、この地球上には今もって全く塩分をとらない人々がいるのです。それはアマゾンに住むヤノマモ族という部族ですが、調べてみますと彼らには全く高血圧が存在しないそうなのです。彼らの身体をこまかく調べ、得られた結論として先生は「食塩のないところに高血圧はない」とハッキリ言われていました。ひるがえって私たちの食生活はどうでしょうか。
 
  研究データにより若干数字は異なりますが、日本人の一日平均の塩分摂取は10グラムを超えるそうです。12グラムから15グラムといったところでしょうか。私がまだ大学を出たばかりのとき、臨床研修の一環として入院患者さんに出される塩分制限食を食べてみたことがあります。ご想像の通り、とても味気ないもので、おいしく食べられたものではありませんでした。いかに塩分の効いた食事に舌が慣れてしまっているかということを思い知らされました。
 
  しかし、ある研究によりますと、日々少しずつ減塩していけば舌が慣れていき、薄味の食事もおいしく感じるようになることが証明されたようです。(私は今のところ自分に対して実験する気持ちにはなりませんが。)高血圧の治療中の方はぜひ試されてみたらどうでしょうか。
 
  なお、東洋医学の中にはむしろ塩分はとった方がよいとする立場もあります。でもこの場合、塩4グラムにつき約2リットルの水を必要とするそうです。もし一日12グラム以上の食塩をとれば、その日のうちに6リットル以上の水を飲まなければいけなくなりますね。これは現実的には無理と考えたほうがよさそうです。荒川先生の言葉を借りるまでもなく、やはり減塩を意識した食事が高血圧治療の王道といえそうです。
 
( 文・神経内科 則行 英樹 )
 
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