神経内科通信
2011年09月号 「肥満と食事について(その2)」
前回から日本体育大学大学院の大野教授が行った講演会の内容をご紹介しています。先生は講話の中で、飢えに強い遺伝子を持った人種(特にモンゴロイド)が飽食を経験すると、肥満や糖尿病といった生活習慣病にかかりやすいのではないか、と指摘されました。
その典型例はアメリカのピマ・インディアンという部族にみられます。この部族の祖先はモンゴル人であることがわかっていますが、中世期に二分され、一群はアメリカのアリゾナ平原に移住し、もう一群はメキシコの山間部に移住しました。アメリカのピマ族は20世紀中頃より農業をやめ、欧米式の食事を摂るようになり、その結果、成人の9割が肥満体型を呈し、35歳以上に限れば、驚いたことに二人に一人が糖尿病になってしまったそうです。一方、先祖伝来の農業による自給生活を送っているメキシコのピマ族には糖尿病がほとんどみられず、平均体重もアメリカのピマ族に比べて26キロも軽いそうです。
このことから、同じ遺伝子を持つ集団であっても、食事や運動における日常の生活習慣の違いにより、体型の変化や病気の発症に大きな違いが生じてきたということになります。非常に興味深いデータでした。
別の例を挙げてみましょう。南太平洋に浮かぶ島、ナウル島での調査です。ここに住む島民は、遠い昔から漁業と農業を営み、自給自足の生活を送っていました。そして研究者の間では、お相撲さんみたいな体格をしていても健康人が多いことで知られていたのです。ところが、40年ほど前に島から豊富なリン鉱石(肥料の材料)が発掘され、そこにアメリカから資本が投入されてしまい、経済的に非常に裕福な島になりました。その結果、スーパーマーケットやファーストフード店が乱立し、きわめて短期間に欧米式の食生活(脂肪と砂糖の過剰摂取)に変化してしまったのです。現状はどうなっているか想像がつきますね。成人の8割が肥満体型となり、人口の三分の一が糖尿病にかかってしまったそうです。
以上の事実より、食事や運動を中心とした生活習慣が変化すると、それまで長い年月をかけて「飢え」に慣れてきた身体(遺伝子)は急激な体内環境の変化に対応できず、生活習慣病という反応を起こすのだと考えて間違いないでしょう。沖縄では最近、若年者・壮年者が親より先に病死してしまう「逆さ仏現象」が問題になっているようです。このことに関して専門家の間では、ファーストフード食の普及が影響しているのではないかとの指摘があります。
続きは次号にて。
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( 文・神経内科 則行 英樹 )